「タバコの過去の効用?」
喫煙は害があると知られていても、なぜ社会に広く受け入れられたのでしょうか。
害に対しての認識が十分でなかった時代にはタバコは単に楽しみを得るためだけのもの
ではなく、儀式において大切な役割を果たし、病気の治療にも利用され、生活や社会
に重要な意味を持っていました。
タバコの原産地である新大陸の人々は、その煙を神々のよき供物として、また神託をも
たらすものとして、火にくべて炎の動きや煙の形から戦いの勝敗や未来の吉凶を占いま
した。北米インディアンの間で、和を結ぶ儀式にパイプ(平和のパイプ)が吸われてい
ました。
タバコはニコチンによる精神神経機能の興奮と鎮静という相反する効果が知られていま
す。呪術師はタバコを粉末 ・煎じ液・しぼり 汁・膏薬・座薬などの形で、さまざまな
病気の治療に使いました。また、毒蛇や毒虫に咬まれた時の手当てや、それらを捕える
、追い払うということにも利用されていました。
コロンブスの新大陸到達(1492年)をきっかけに、新大陸からは、トウモロコシ・ジャ
ガイモなどとともに、タバコがヨーロッパへ移入されました。当初ヨーロッパではタバ
コは薬用・観賞用の植物でしたが、しだいに喫煙の風習が広まり嗜好品として流行しま
した。それが大航海時代とともに、世界各地に伝えられていったのです。日本へは南蛮
貿易と共に16世紀末に伝えられました。
江戸時代には、タバコは庶民の風俗に完全に溶けこみ、人々にとっては数少ない身近な
楽しみであり、生活のなかのいこいとして疲れをいやすものでした。また、会話しなが
らの一服は話しの間を保ち、来客にはもてなしのひとつとなるなど、社交の場でも取入
れられたのです。いつでも喫煙できるように行楽や旅にも携えられました。
日本独自の刻みタバコの文化と伴に、きせるやタバコ入れの喫煙具にも「粋」の精神が
発揮され、美術的に価値の高いものもつくられました。
幕末まで、日本のタバコはきせるで吸う刻みたばこだけでした。文明開化の波にのって
、舶来の紙巻たばこが入ってくると、ハイカラ思想も手伝って、携帯に便利な紙巻たば
こが好まれるようになりました。そして、紙巻たばこも口付から両切へ、さらに健康被
害が知られだしてからフィルター付へと、時代の流れとともに変わってきました。
この歴史をみると、16世紀以来タバコは新しい風俗として世界各地にもたらされたこと
が理解できます。喫煙という新しい習慣、これは文化的な側面からみると解放、社
会進出のシンボルとしてのタバコの役割が見えてきます。
たとえば、日本では「男はタバコを吸ってもよいが、女が吸うのは感心しない、みっともない」という考えがあります。これはタバコに見られる社会的性差別です。西欧先進
国など社会的性差別の少ない国では男女の喫煙率の差は存在しません。
この場合タバコの果す役割はなんでしょう。男と同じ様な社会進出を遂げよう、遂げた
いと思う女性によって、喫煙は保守的伝統的な考えを破る小道具として使われます。
それは「若者はなぜ喫煙にあこがれるか」の理由にも通じるものがあります。
ある分析では、喫煙者の特徴をキーワードで表すと自律、変化、異性愛、外向的であり
、非喫煙者は達成、服従、秩序です。未成年者の喫煙を法で禁止し、社会もそれを支持
しているが、20歳過ぎれば容認されるのが喫煙です。既存のルール(法)を破る感性は
若者の特性ともいえます。10代の喫煙は最も緩やかな社会に対する反抗と捉らえる事も
できます。
※このページに掲載されている内容の一部は、「たばこと塩の博物館」で公開されているデータをもとに再構成したものです。 |